1983(昭和58)年1月29日付

1983(昭和58)年1月29日付
『富士山大爆発ありません 政府が異例の“お墨付き” 「科学的根拠ない」』

 富士山大爆発説には科学的な根拠はありません」−。28日、中曽根総理大臣は県選出の鈴木強代議士(社会)にこんな答弁書を送った。これは鈴木代議士が「爆発説が地元民に強い不安を抱かせている」として昨年暮れに内閣にことの真偽をただしたのに答えたもの。約1カ月かけて検討、同日の閣議に「心配なし」の答弁書を提出したが、政府が爆発説を否定したことに鈴木代議士は「富士山周辺の住民もホッとするのでは…」と語っている。

 この風説は東京都内の書店が出版した「富士山大爆発」という本が震源地。発行とともにベストセラーになるほどの反響を呼んだもので、その本では「1983年9月10日から15日の間に富士山が大爆発し、関東地方に直下型地震が起きる」と予知している。県内でも富士吉田市が富士山ろくに地震計の設置を決めるなど心配する声も出ている。

 このため鈴木氏は昨年12月23日、衆院議長を通じて内閣に「富士山大爆発説と東海大地震発生に関する質問趣意書」を提出した。その内容は(1)1983年9月10日から15日の間に富士山が大爆発するとの風説があるが信ぴょう性はどうか(2)富士山大爆発の前後に直下型第二次関東大地震が発生するとの風説はどうか―など6項目。質問を受けた内閣では気象庁、科学技術庁など関係5省庁が約1カ月にわたって検討、この日の答弁になった。答弁書によると(1)富士山には噴火の記録があるので活火山である―としているが、風説などについては(2)科学的な根拠はない―とキッパリ回答している。

 この答弁書について鈴木代議士は「富士山の大爆発とか関東大震災の発生とかの風説が流されて人心を動揺させているので質問した。特に地元の富士吉田市周辺の住民は不安な気持ちで当惑していると思う。しかし、科学的な根拠のないことということが分かり不安は取り除ける」と話していた。

■予言は迷惑千万 富士五湖の観光業者

 富士山ろくは、年間1300万人が訪れる県内最大の観光地。この本の“予言”は大きなショックだった。「噴火が原因かどうかは疑問だが」としたうえで、9月の予約状況が悪いことを指摘するホテルや旅館が多い。

 富士五湖のなかで宿泊施設が集中する河口湖畔のホテルは「9月は修学旅行などの団体客が中心だ。例年並みの予約だが9月の10日から15日はゼロだ」という。また別のホテルは「昨年より予約の出足が鈍い。10−15日は少ない。10日が土曜日、11日が日曜日なのに」と残念そうだ。

 ホテルの経営者の一人は「言論の自由だが、科学的根拠もあいまいな予言は迷惑千万だ。どうして罪にならないのか。このためにお客が減り、結局爆発しなかったらどう責任をとってくれるのか」と怒っている。爆発しなかったら告訴する、と息まく業者もあるほどだ。

 一方、行政は「いつかは噴火する」との考えから、国や県に地震計の設置を要望してきた。しかし、遅い対応に業を煮やした富士吉田市は来年度、自費で火山観測のための地震計4基を設置することにした。浜野一彦山梨学院大教授は「富士山の噴火は、歴史的に見て50−100年前から前兆がある。十分にキャッチできる。ことしはない」という。

 各市町村とも大規模地震特別措置法で、東海地震に対しての防災対策は進めているが、このなかには富士山の噴火を想定した対策は入っていない。政府が「心配ない」とお墨付きを出したものの「噴火して溶岩が流れてきたら何をしてもしようがない」とのあきらめがある半面、行政に対して噴火対策を望む住民の声は強い。【当時の紙面から】

山梨日日新聞社 YBS山梨放送
当ウェブサイト上の掲載情報、写真等の無断複写・転載を禁止します。