富士山講座 山梨日日新聞の連載から
 熱中症の季節  柴田政章
高体温時、血中に内毒素 回復後も抵抗力が低下
 甲府盆地に本格的な夏が到来する。外気温が高くなると、体温も調節しにくくなる。熱中症にかかるおそれもでてくる。体がだるくなったり、めまいがしたら、注意が必要だ。放っておくと、吐き気、頭痛に襲われることもある。重症になると、意識障害が起きて、脳機能をはじめ肝臓や肺などの主な臓器が機能障害を起こす。最悪の場合、死にいたる危険性さえある。暑い夏を安全に過ごすためには、熱中症について理解を深めることが大切だ。

 熱中症の発症には、気温と湿度が関係している。気温が30度を超え、湿度が70%以上になると、熱中症にかかる人が急増する。統計によると、かかりやすいのは70歳以上の高齢者、ついで4歳以下の乳幼児となっている。1968−94年に熱中症で亡くなった人は、全国で2312人。このうち高齢者と乳幼児が、全体の半数を占める。高齢者は特に注意が必要だ。死者数の4割強が、70歳以上の高齢者になる。山梨県の高齢者の割合は、全国的にも高い。近い将来には、5人に1人がこの年齢になるとさえ言われている。また、地球の温暖化が進めば、夏季の気温はますます高くなる。熱中症にかかったり、熱中症が原因で亡くなる人が増える可能性もある。

カニズム解明へ

 熱中症が人体に深刻な影響を及ぼすのはなぜか。熱中症で体温が高くなると、大腸菌で作られた内毒素が血液中に漏れる。このために、体温が正常に戻っても、体の抵抗力が弱まると言われてきた。県環境科学研究所は昨年、このメカニズムを解明するために、ウサギを用いた動物実験を行った。

 実験は(1)ウサギを約2時間にわたり気温45.0度の状態におく(2)体温が39度から43度に上昇したところで、常温にもどし自然回復させる(3)高い体温を経験したウサギを、回復から1日後、2日後、3日後の3グループに分ける(4)高体温を全く経験していない健康なウサギとともに4グループとする(5)これらのウサギにバクテリア菌から抽出した内毒素を注射し、意図的に発熱を起こさせる−という流れで行い、4グループのウサギを比較した。

 高体温を経験していない健康なウサギの発熱と、回復から2日後と3日後のウサギの発熱はほぼ同じだった。しかし、回復から1日後のウサギの発熱量は、ほかのウサギに比べて3割程度も大きくなった。回復から1日後のウサギの血液には、健康なウサギよりもより多くの内毒素が含まれていることも分かった。

 また、抗生物質を与えた別のウサギに高体温を経験させ、1日後に発熱を起こさせたところ、健康なウサギの発熱とほぼ同じだった。抗生物質を投与されると大腸が除菌されるため、血中へ漏れ出るはずの内毒素もなくなる。そのため、回復1日後にもかかわらず、発熱が健康なウサギとくらべて大きくならなかった。これまでの研究では、漏れ出た内毒素が白血球と結合し、敏感にしたためではないかと考えられる。この推察を確認する研究が引き続いて必要である。

後の夏風邪に注意

 身近な問題として考えてみよう。熱中症にかかったら、しばらくは注意が必要だ。熱中症そのものの症状が改善しても、直後に夏風邪をわずらえば重くなる可能性があるということだ。実際に、熱中症の患者はカビを伴う菌に対する感染率や内毒素による敗血症感染率、死亡率が高くなるとする臨床報告もある。

 県環境科学研究所の実験結果が臨床報告の原因を説明しているのではないだろうか。県環境科学研究所では、これらの実験結果を、熱中症の予防や治療に役立たせていきたいと考えている。

内毒素とは
 バクテリアの一種・グラム陰性菌の細胞壁に含まれていて、菌が増殖したり死滅した時に細胞外に放出される物質。この内毒素が血液に入ると、発熱などの感染症状が起きると考えられている。

柴田政章(しばた・まさあき)さん
 1945年岐阜県生まれ。県環境科学研究所副所長。旧チェコスロバキア国立科学アカデミー生理学研究所で博士号取得。佐賀医科大助手、アメリカ合衆国テネシー大医学部助教授などを歴任。生理学博士(旧チェコスロバキア科学アカデミー生理学研究所)。


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