富士山講座 山梨日日新聞の連載から
富士からfujiへ 第1部 イコモスが出した宿題
 五湖開発 拡大を懸念
迫られる観光との両立

 家族連れや若者たちが富士山と湖の景色を楽しみ、湖岸沿いの土産物店に出入りする。湖上ではモーターボートや水上バイクが駆け回り、遊覧船が航行する。富士山に登山客が殺到する夏山シーズン中、麓にある河口湖も大勢の観光客でにぎわう。

 「世界文化遺産登録を観光振興につなげるには、保全と両立できる開発の在り方を考えなければならない」。河口湖周辺の業者でつくる富士山国際観光協会の山下茂会長(69)は、こんな思いで登録を待つ。

地元業者は悲鳴

富士山麓にある河口湖。周辺は開発が進み、観光シーズンには湖岸は観光客でにぎわい、湖上はモーターボートや水上バイクが多く見られる=山日YBSヘリ「ニュースカイ(NEWSKY)」から空撮
富士山麓にある河口湖。周辺は開発が進み、観光シーズンには湖岸は観光客でにぎわい、湖上はモーターボートや水上バイクが多く見られる=山日YBSヘリ「ニュースカイ(NEWSKY)」から空撮

 富士山が世界文化遺産にふさわしいか審査した国際記念物遺跡会議(イコモス)は勧告で、資産に対する脅威として「山麓地域の開発圧力」を挙げた。特に山梨県側の山麓と富士五湖周辺を名指しした上で、「より厳しい開発規制が求められる」と指摘した。

 具体的には、河口湖や山中湖でのモーターボートや水上バイクについて「湖の平和な環境を阻害している」と警告。湖岸の不適切な駐車、御師(おし)住宅周辺の現代的な建築物などを列挙し、街中にある構成資産の現況に危機感を示した。

 富士五湖では、世界文化遺産登録をにらみ、県や富士河口湖町、山中湖村、観光関係者が課題の解決を図る「明日の富士五湖創造会議」を設置。ボート数や屋外広告物の色、桟橋の長さのガイドライン作りなど、湖ごとに適正利用の在り方を検討し始めている。

 こうした自主規制の動きがある中で、観光業者には「今より厳しい規制が掛かれば、仕事に影響が出て生活できなくなる」(山中湖村の74歳男性)「規制強化は、観光業者の保護策とセットで考えるべきだ」(富士河口湖町の79歳男性)と戸惑いや反発もある。

16年までに報告

 世界文化遺産登録の推進活動では、富士五湖の文化財指定へ向けて、規制強化を懸念するボート業者などから同意を得ることがハードルとなった。

 こうした事情も踏まえ、行政は規制強化に慎重だ。横内正明知事は勧告直後、開発抑制に対し「既に自然公園法の網に掛け、各市町村で景観条例を作ったので景観は守られる。規制強化ではなく、乱開発が起こらない対応を検討する」との認識を示した。渡辺凱保富士河口湖町長も「今後も今の法律や条例で景観などを保全できる」と同調する。

 ただ、イコモスは、2016年までに構成資産の保全状況をまとめた報告書をユネスコ世界遺産センターに提出するよう求めている。これに対し近藤誠一文化庁長官は「登録されても保全が不十分だと問題視されるケースが増えている。富士山がそうならないよう、誰もが納得する保全計画を作らなければならない」とし、まずは地元主導で勧告に沿った保全策の検討を促す。

 観光地でありながら、世界基準の保全を迫られる富士北麓。清掃などを行うNPO法人富士山クラブの青木直子事務局長(49)は「開発規制を求められているが、人が住み、観光業者がいる現状も考えるべきだ」とした上で、「公共交通だけで移動できたり、自転車専用道を整備したりと環境や景観に負荷を与えない開発や、まちづくりが求められていて、こうした取り組みが観光地としてプラスにつながる」と提言する。



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