富士山頂の測候所

富士山頂の測候所
 富士山頂の気圧は平均して638ヘクトパスカル。1気圧が1013ヘクトパスカルなので、ざっと0.63気圧しかない。平地に比べ空気の濃さは3分の2、水は100度ではなく約88度で沸騰する。気温の低さや風の強さは、時として南極の昭和基地を上回る。

 そんな場所に富士山測候所があった。気象の常時観測拠点としては世界で指折りの高所。1999年10月末にレーダー観測が終了、2004年10月から無人となった今も、気圧、気温、湿度といった貴重な高層気象データを送り続けている。

 地上の仕事場として、ここは間違いなく「日本一高い仕事場」だった。高いがための厳しい環境のなか、観測員は危険と隣り合わせで仕事をした。「でも、仕事も生活も景色も、日本国内どこを探してもここと同じ経験はできない。厳しさもあるが日本一の仕事をしているという充実感も大きい」

 山下誠司さんは、富士山測候所勤務をそう振り返る。山下さんは合計して約15年山頂で観測業務につき、後半の約10年は観測班長として活躍したベテラン。2001年4月に甲府に「下りて」きた。

 レーダー観測があった当時は5人1組を基本に、1回の勤務は約3週間。班長、気象観測、レーダー、通信、調理とそれぞれ役割が分担されている。主な仕事は観測機器の保守点検。「何もなければ平穏に過ごせる。しかし強風や落雷、着雪や霧氷の時など緊張したり、つらいことも多い。真冬の勤務交代は命がけの時もある」

 外と違い、観測所内は室温20度前後の別世界。Tシャツでも過ごせる。風呂もありカラオケもできるなど長期の生活に配慮されている。そして景色は格別。「満天の星のなか地上の明かりにつながる天の川。雪景色に濃い青空のコントラスト。忘れられない景色はたくさんある」と山下さんは言う。

 1895年、民間気象学者の野中至と千代子夫人に始まった山頂観測。今は無人観測となったが、富士山測候所の足跡は、日本の気象観測の歴史の中でさんぜんと輝いている。

山梨日日新聞社 YBS山梨放送
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