2018.3.02

「風人」風土の味求め、根下ろす 料理人 豊島雅也さん 

仲間と仕留めたイノシシを前に、狩猟を振り返る豊島雅也さん(右)=富士河口湖町本栖

 雪深い富士山中で猟銃を手に、獲物の気配を探す。「ありましたよ」。シカやイノシシとみられる足跡を見つけ、料理人豊島雅也さん(33)=富士河口湖町小立=は真っ白な息をはき、少年のような笑みをたたえた。
 昨年7月、富士急行線河口湖駅近くのテナントに、富士山麓のジビエ(狩猟肉)料理を提供するレストランを構えた。昼はニホンジカの肉を使ったパスタやカレー、予約制の夜は客の好みに合わせてシカのハツ(心臓)や胃袋などを使った料理も出す。「地元食材には土地の酒が合う」と県産ワインもそろう。

 駿河湾に面した静岡県由比町(現静岡市)で生まれ育った。高校時代はハンドボールに打ち込み全国高校総体(インターハイ)に出場したが、2年時に負傷して大学でのプレーを断念。幼い頃から好きだった料理の道に進もうと決めた。鮮魚店でアルバイトを始め、魚のさばき方を覚えた。
 調理師を養成する専門学校を卒業して静岡、愛知県などのレストランを経て、フレンチシェフ浜田統之さんが率いた長野県軽井沢町の店で約4年間働いた。世界で最も権威があるとされるフランス料理のコンクールで日本人初の3位入賞を果たした有名シェフの下で経験を積んだ。
 2015年、富士河口湖町にオープンした高級リゾートホテルの厨房に立って間もなく、地元のシカ肉を紹介された。これまでシカ肉は「臭みがあるイメージが先行して好きではなかった」が、捕れたばかりの新鮮な肉は「さっぱりした牛肉のよう。とてもおいしかった」と魅了された。
 メニューに取り入れ、休日はジビエの処理施設を訪れた。猟師の知人ができて解体などに立ち合い、「富士山麓で育まれた味を広めたい」と独立を意識するように。昨年6月、ホテルを辞めた。

 料理人として、フランス語で風土や土壌を意味する「テロワール」を追求する。「シカ肉と合わせる食材は、シカが食べる木の実に着目してイメージする。土地の素材を最大限に生かすことが大事」。県外の食材業者のセールスも「地元の食材しか使いません」と受け付けない。
 狩猟免許や鉄砲の所持許可を得て昨年、地元猟友会に入った。仕留めるところから関わって料理を提供するのが当面の目標だ。猟期にはほぼ毎週、ベテラン猟師に連れられて獲物を追っている。
 13年に世界文化遺産登録された富士山。多くの外国人観光客が訪れ、国際的な観光地となった町の状況を必ずしもポジティブに受け止めていない。「恵まれた観光資源に頼り切っている部分があるのではないか。提供するサービスの質でリピーターを確保することが大事」
 昨年、長男が生まれた。この地に根を下ろして生きる覚悟が固まった。「富士山麓にはジビエをはじめ良質な食材と水がある。しっかり向き合い、味とともに素材のストーリーを伝えていきたい」〈文・一ノ瀬伸、写真・広瀬徹〉

 豊島雅也(とよしま・まさや)さん 1984年、静岡県由比町(現静岡市)生まれ。2015年から富士河口湖町の高級リゾートホテルで働き、約2年後に独立。ジビエ料理を中心に提供するレストラン「TOYOSHIMA」を開業した。店内は山梨県産の木材や地元作家のガラス工芸品などを使っている。

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