2020.8.12

「仰ぎ見る富士」価値に光を

山静の美術館長「山の日」対談

 8月10日の「山の日」に合わせ、山梨県立美術館の青柳正規館長と静岡県立美術館の木下直之館長が「仰ぎ見る富士山」をテーマに対談した。今年は新型コロナウイルスの影響で4登山道がすべて閉鎖され、富士山が「登る山」ではなく「仰ぎ見る山」となった特別な夏。世界文化遺産に登録された富士山を、古来から人々はどう見てきたのか。美術史の観点から「見る山」としての富士山の価値について語り合った。

 「芸術の源泉、信仰の対象」として世界文化遺産に登録された富士山について、青柳館長は「平安時代から文学や芸術作品に表現されてきた蓄積が富士山の強み。ストーリーがある」と評価。木下館長も「古来から語られ、詠まれ、描かれてきた。富士山は人間が作りだした一面もある」と富士山の文化的価値を認めた。

 富士山が日本人の象徴となった経緯について、青柳館長は「鎌倉幕府が開かれたことで京都しかない狭い世界から、一気に日本の空間が広がった。その中で富士山がナショナルなものになった」と推測。江戸時代には東海道だけでなく、中山道から見た山梨側の富士のイメージも広く普及したという。木下館長も葛飾北斎らの浮世絵や富士信仰の広まりを挙げ、信仰の中で富士山が国民のシンボリックな山となった歴史を振り返った。

 青柳館長はコロナ禍で浮き彫りになった文化の重要性に触れ、「文化としての山」を見ていく大切さを強調。今後の保全については「富士山を大切にすることが、他の世界遺産を大切にすることにもつながる」と語り、人類文化の多様性を守る必要性にも言及した。さまざまな山容の山がある山梨県の特徴を生かし、山梨県立美術館で今後、富士山の写真など山の表現をクローズアップしたい意向も示した。

(2020年8月10日付 山梨日日新聞掲載)

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