1つ前のページに戻る

火山活動監視に新たな「目」


早期予知なお難しさ

 「ちょっと嫌な感じがするね」。2014年9月中旬、御嶽山の麓にある長野県王滝村役場。総務課長を務めていた栗空敏之さん(62)は近くにいた部下に声を掛けた。「9月10日 52回」「9月11日 85回」。役場には気象庁から御嶽山周辺で火山性地震が頻発していることを示すデータが送られてきていた。

 【写真】300年以上にわたり平穏を保つ富士山。噴火の予兆をつかむため、研究者の模索が続く=山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から

 約2週間後の9月27日昼、御嶽山は噴火した。地下のマグマ活動を示す火山性微動は検知されず、火山性地震も減少傾向になっていた。噴火警戒レベルは5段階で最も低い「1(平常)」のままで、明確な「前兆」がない噴火だった。

 「まさか噴くとは」。栗空さんも噴火するとは思っていなかった。人口771人の王滝村は、御嶽山を訪れる登山客らを対象にした観光が主要産業。経済活動を考えると、独自の判断で入山を制限するのは難しいという。「気象庁から何かしらの規制があれば犠牲は防げたかもしれない」。噴火から4年以上が過ぎた今も後悔は尽きない。

平常時から注意

 気象庁は御嶽山噴火以後、警戒レベルの表現を変更。レベル1は「平常」から「活火山であることに留意」とした。レベル1でも潜在的な危険があるのを強調するのが狙いだ。気象庁火山課の担当者は「具体的にいつ、どのくらいの規模の噴火が起こるかを予知するのは難しい。平常時から注意してほしい」と説明する。

 予知の難しさは富士山も例外ではない。地震計やGPS(衛星利用測位システム)などで山体の動きや火山性地震を計測し、マグマの動きを監視している。マグマだまりの動きをつかむため、県富士山科学研究所は新年度から新たな「監視の目」として、重力計を導入する。

 4、5合目の富士スバルライン沿いなどに最大3台を常設する予定で、地中に働く重力を計測し、マグマの状況を把握する。同研究所で火山防災を研究する本多亮さん(41)は「重力計も加えることで指標を増やし、精度の向上につなげたい」と言う。ただ、火口の想定エリアが広大な一方で、重力計は「点」での把握。山全体のマグマの動きをつかむことは現実的に難しいという。

 【写真】富士山に設置される重力計。山梨県富士山科学研究所の本多亮さんは「新たな視点を取り入れ、判断につなげたい」と言う=富士吉田市上吉田

いつか分からず

 「前兆が分かるのは非常に短い期間。うまくいっても数週間前、2週間前くらい。兆候をつかんでから数時間でマグマが噴き出すこともある」。火山噴火予知連絡会の元会長で、県富士山科学研究所の藤井敏嗣所長(72)は予知の難しさを明かす。

 富士山の警戒レベルは「1」で「活動低下の状態」(気象庁)。藤井所長は「(宝永噴火から)300年間噴火がないので、(噴火の前に)マグマが上昇する経路をつくることが考えられる。前兆をつかんでから1~2時間での噴火はないだろう」との見通しを示す。

 「それでも」と続けて、藤井所長は危機感を示す。「何カ月も前から噴火を予測できることは決してない。いつマグマが上がってくるかは我々にも分からないから」


 【「守る命」富士山噴火に備える】
広告