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いざ予兆見えたら…


■警戒レベル一気に3へ

 「気象庁は午前10時40分、富士山の噴火警戒レベルを1から3に引き上げ、噴火警報を発表しました」。頂に手が届きそうに見える富士山5合目。テレビからニュース速報が流れると、土産物店の関係者らに緊張が走った。

 2015年6月11日、噴火を想定して初めて5合目で行われた訓練。郡内地域を震源とする震度4の地震が発生、気象庁が警戒レベルを引き上げたとの想定で行われた。

 噴石や火山灰から身を守るため、県の担当者が観光客役の参加者にヘルメットとゴーグル、マスクを配り、避難路に誘導する。火が上がったとの想定で、消火班がホースで放水。雲間を縫って飛来したヘリコプターは、けが人を乗せて病院へと飛び立った。

◎県が本部設置

 訓練を実施した、観光業者でつくる「富士スバルライン五合目自主防災協議会」の小佐野紀之会長は「富士山はいつ噴火するか分からず、訓練を重ねなければならない」と表情を引き締める。

 2014年9月に御嶽山(長野、岐阜県)が噴火、2015年5月には大涌谷、6月には浅間山と列島の火山活動が活発化。県富士山科学研究所の荒牧重雄名誉顧問は「富士山の地下で何が起きているのか分からない以上、いざという時に対応できる防災体制の整備が必要」と指摘する。

 富士山で噴火の兆候が確認された「その時」、関係機関はどう動くのか。

 気象庁が警戒レベル(5段階)を3に引き上げると、県や市町村にある防災情報提供装置のアラームが鳴り、担当者を中心に警戒に入る。県は災害警戒本部を甲府・県防災新館に設置、情報収集に当たる。レベル4で災害対策本部に移行し、300人態勢で避難支援をする。

 一方、富士吉田市は防災無線や広報車を通じて、噴火警報の情報を住民や観光客に伝達。警察と連携して入山規制の看板を設置する。溶岩流が到達する恐れが生じれば、避難勧告を発令する。5合目より上では、県や市町村が、避難が必要なエリアにいる登山者に緊急速報メールを一斉配信し、警戒レベルの引き上げを周知する。

◎最大限の態勢

 「問題は、富士山の場合は、噴火想定が難しいことだ」と荒牧名誉顧問。国内の火山の多くが山頂付近から噴火しているのに対して、富士山では山腹から噴火するケースが少なくない。1707年の宝永噴火では山頂から南東側に、864年に始まった貞観噴火では北西側に火口が発生した。

 山頂周辺への立ち入りを規制する噴火警戒レベル2を当てはめることができず、噴火の予兆が確認された時点で警戒レベルは現在の1(活火山であることに留意)から3(入山規制)まで、一気に引き上げられることになる。

 「いつ噴いてもおかしくない」(荒牧名誉顧問)と言われる状況下、「未知の噴火」への備えは急務だ。ただ、富士山が最後に噴火したのは約300年前。現代に生きる誰ひとりとして噴煙を上げる霊峰の姿を見たことはない。堀内浩将県防災危機管理監は「現時点で最大限の態勢は整えたが、万全とは言い切れない。ケースに応じてできる限りの対処をしていくしかない」と覚悟をにじませる。


 【富士山防災 噴火に備える】
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