1つ前のページに戻る

御嶽山の教訓


■観光地の危険、どう周知

 昨年9月27日正午前、御嶽山(長野、岐阜県)の頂上付近。突然、辺りが真っ暗になり、爆音が響き渡った。灰まみれになった登山者が、避難小屋に次々と逃げ込んできた。マスクとヘルメットを手渡す。噴石でけがをした人がいる。止血をして、毛布でくるむ-。

 「まだ上にいるかもしれない人の救助に向かう余裕はなかった」。6月20日、御嶽山の麓の長野県木曽町で開かれたシンポジウム。パネル討論で、避難小屋の責任者瀬古文男さんは当時の状況を語りながら苦渋の表情を見せた。

 【写真】御嶽山噴火をテーマに、長野県木曽町で開かれたシンポジウム。パネル討論では反省や提言が相次いだ

◎戦後最大の災害

 犠牲者57人、行方不明者6人という戦後最大の火山災害となった御嶽山噴火。瀬古さんは「3千メートル級の噴火で救助が難しかった」と指摘した。ヘリは灰やガスに阻まれ、登山という人力に頼るしかなかったと振り返り、続けた言葉に力を込めた。「御嶽山の教訓は、富士山の噴火対策に生かせるはずだ」

 御嶽山(3067メートル)と富士山(3776メートル)。ともに標高3千メートルを超す活火山で、行楽シーズンには大勢の登山者が集まる「観光地」と大きな共通項がある。「富士山の火山防災につなげたい」。約150人が集まった会場には、発言の数々をメモを取りながら聞き入る富士吉田市安全対策課の照井智防災専門官の姿があった。

 パネル討論では、当時長野県の危機管理監だった青柳郁生さんも参加。来訪者を対象にした防災訓練はしておらず、情報の伝達手段も整理されていなかったと説明した。「県や地元自治体が活火山だという情報を伝えきれず、登山者も活火山に登っている認識が薄かったかもしれない」

 富士山では、どうやって入山者に情報を伝えるのか。山梨県は今夏、5合目の総合管理センターに噴火警戒レベルや天候情報をリアルタイムで表示する電光掲示板を設置。噴火パターンによって避難路を示した「避難ルートマップ」も貼り出した。5合目以上の登山道沿い4カ所には、サイレン機能付きのスピーカーを配備。県は「緊急情報を伝えるとともに、富士山が活火山であるという意識を高めてもらう狙いもある」(防災危機管理課)と説明する。

◎風評被害を懸念

 この日のパネル討論の中で、1人の言葉が会場を打った。「最悪の事態を考えずに観光誘致をしていた村や観光関係者、村民の怠慢。おわび申し上げます」

 発言をしたのは、御嶽山の麓の王滝村で民宿を営む小谷洋子さん。元村議の小谷さんは「予知までいかなくても、地震が増えているなど客観的な事実は伝えることはできる」と主張、同席した火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長=山梨県富士山科学研究所長=に、観光客らが自ら判断するための情報の提供を迫った。

 観光と防災の両立は富士山でも大きな課題だ。観光業界には風評被害を懸念し、火山情報の発信に慎重な声も残る。いかに観光と防災のバランスを取っていくのか-。思いにふけっていた富士吉田市の照井防災専門官の耳に、小谷さんの声が響いた。「もし地元の観光に影響したとしても、人の命の重さに比べたら我慢できることではないでしょうか」


 【富士山防災 噴火に備える】
広告