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山梨、静岡二つの地図


■縦割りが「壁」連携欠くく

  「静岡との連携はどうなっているのか」。6月4日、火山専門家らが集まった会議で、荒牧重雄・山梨県富士山科学研究所名誉顧問が県幹部に強い口調で説明を求めた。

 手元には、県が突発的な噴火に備えて作製した富士山の「避難ルートマップ」。山頂から北側の山梨県側が図示され、噴火パターンによっては溶岩流や避難路が静岡県側に向かう。だが、県境を越えた先の情報は示されていない。「富士山は一つの山で、登山者に山梨、静岡の区別はない。統一した避難マップを作るべきだ」。荒牧名誉顧問は県幹部に対応を迫った。

 【写真】富士山の開山期間などを話し合った山梨、静岡両県の会議=静岡県内(昨年12月)

 静岡県も独自の取り組みが目立つ。避難マップは今秋の策定に向けて作製を進めており、併せて登山者に火山防災情報を発信するスマートフォン向けのアプリ開発も計画。今月15日には山頂や静岡側の登山道で、富士山噴火を想定した初めての防災訓練を実施する。ただ、どの事業も山梨県の参画は予定していない。

◎できることから

 「初めての取り組みばかりで、静岡の対応だけで手いっぱい。自治体ごとの予算や地理的な事情も異なる」。静岡県危機情報課の筑紫利之課長がこう話せば、山梨県防災危機管理課の山下宏課長も「緊急的な対応で、地域性や予算の優先順位などそれぞれ事情がある」と説明。「おのおのできるところから始め、いずれ神奈川を含めた3県で連携した体制を整えるのが理想だ」と口をそろえる。

 富士山をめぐる各施策について、山梨、静岡両県の足並みがそろわない点は以前から問題視されてきた。山開きの時期では昨年12月の両県関係者の会議で、山梨県側の委員が「両県で異なる期間が固定化するのは問題」と山梨側の7月1日開山に同調するよう求めたのに対し、静岡県側の委員は「夏山シーズンは9月中旬まで続く。総登山者数を抑えるため期間は2カ月とするべきだ」と主張。折り合いは付かず、静岡側は例年通り7月10日の開山を予定する。

◎ちぐはぐな対応

 入山料(富士山保全協力金)を事前に受け付けるインターネットサイトは当初、各県で開設。受付期間も異なった。登山口では山梨側が人員を配置して24時間体制で集めるが、静岡側は夜間は受け付けないなどちぐはぐだ。マイカー規制の実施期間も、静岡側の富士山スカイラインは山開き期間の全63日間に対し、山梨側の富士山有料道路(富士スバルライン)は開山期間内の連続53日間に限っている。

 足並みの乱れは、歴史的な経緯や土地の利用形態が異なることが背景にあるとされるが、富士山防災に関わる専門家の一人は「縦割り行政の弊害」と指摘する。「互いに阻害するつもりはないのだろうが、意思の疎通を欠いたまま施策を進めていることが障壁になっている」

 静岡県が作製を進める避難マップが出来上がれば、一つの山に南北に分かれた二つのマップが存在することになる。現在の山梨、静岡両県の関係を表しているかのよう。荒牧名誉顧問はそんな見方を示しながら、誰のための対策なのかを第一に考えるよう両県に求め、「環富士山」での取り組みを強く訴える。「いつ、どこで噴火するか分からない富士山に県境はない」


 【富士山防災 噴火に備える】
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