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目に見える価値が重要

中村英俊 「平泉」に関わった岩手県教委課長

 「平泉」は浄土思想を具現化した遺産と認められ、今年の世界遺産委員会で世界文化遺産に登録された。ただ、登録作業を通して感じたのは、地元の考える価値と世界遺産委員会の考える価値は必ずしも合致しないということだ。

 地元では「平泉」について、地方政権が現世に浄土の世界を現出した点なども含めて広い価値を見いだしたが、今回認められた遺産の範囲はあくまで浄土思想に関係する部分という狭い範囲に限られた。

 当初は9件の構成資産を盛り込んだが、審査を行うイコモスから登録延期勧告を受けた際、「浄土思想と関係ない」と指摘された構成資産は外し6件に絞った。さらに登録が決まった世界遺産委員会でも、平泉に浄土の世界を現出した奥州藤原氏の拠点「柳之御所」が削られ、最終的には5件にとどまった。

 経験から言えるのは世界遺産は「戦略が重要」ということだ。地元が考える価値には多少目をつぶってでも、世界遺産委員会の考える価値に合う資産を挙げ、狙って取りにいかなければならないものと思っている。

 「富士山」の価値の中にも信仰が入ってくるが、「平泉」の経験から言えば、「構成資産のどの部分に信仰が表れているか」を詳細に説明することが大事になる。目に見える物を評価するのが欧米の価値観だ。「日本の信仰が欧米人に分かるはずがない」という議論があるかもしれないが、推薦書の中で構成資産との関係を筋道立てて説明できれば認めてもらえるはずだ。

 「富士山」については世界遺産委員会の関係者も存在を知っているだろう。それは大きなアドバンテージだ。「平泉」は関係者にまずイメージを浮かべてもらうための説明に大きな労力を費やした。

 しかし「富士山」ならば簡単に思い浮かべてもらえる。登録作業を進める上で、知名度が高いということは非常に有利だと思う。「富士山」は構成資産と価値の関連性さえきちんと説明できれば十分に登録が可能なのではないか。

(2011年9月29日付 山梨日日新聞掲載)
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