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「世界の宝」へ登録作業大詰め

来月、推薦書原案を提出 県、地元と合意形成図る

世界文化遺産登録の手続きが進む富士山

世界文化遺産登録の手続きが進む富士山=山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から

 富士山の世界文化遺産登録に向けた作業が大詰めを迎えている。7月末の文化庁への推薦書原案提出を控え、構成資産などを抱える自治体で住民説明会が進んでいる。構成資産の範囲をめぐっては本栖湖から富士山を望む展望線を含めることや、富士五湖の範囲を湖面から湖岸まで拡大する案が示されている。推薦書原案提出までに地元住民の合意形成を図った上で、2012年度にも見込まれる本登録を目指した追い込みの協議が進む。

 富士山の世界文化遺産登録をめぐっては、昨年9月に山中湖村などで開いた国際専門家会議で一つの大きな転機を迎えた。世界遺産の候補地を審査する国際記念物遺跡会議(イコモス)の関係者らは、富士山の自然的な美しさに価値を見いだすことを提案。両県はそれまで想定した構成資産や資産を保護するための緩衝地帯(バッファゾーン)の見直しなどを行うことになった。

 作業見直しの中で焦点となったのは構成資産の範囲選定。イコモスの関係者は「富士山の信仰・芸術は美しい景観が基になっている」と指摘。その象徴として本栖湖西岸からの富士山の展望を挙げ、本栖湖と富士山の一体化した景観保存を求めた。

 山梨県はこの提案を受け入れる格好で本栖湖からの眺望を構成資産とするとともに、富士五湖の登録範囲もそれぞれの湖面から湖岸まで広げる案をまとめた。ただ、本栖湖と富士山の一体的登録には広大なエリアを構成資産として保全することが必要となるほか、湖の範囲拡大も湖岸のボート業者らから規制強化を懸念する声が根強く残っている。

 県はこれまでに山中湖村などで開いた住民説明会で「新たな規制が加わることはない」と強調。今後は富士河口湖町での湖ごとの説明会で住民の理解をいかに得ていくかが焦点となる。

 また、登録に向けては富士山ろくに広がる陸上自衛隊の演習場の扱いが未確定のままとなっている。イコモスの関係者からは「推薦資産の価値管理に寄与する可能性を検討すべきだ」との指摘があるが、これまでのところ具体策は示されていない。文化庁と防衛省の折衝が求められ、国レベルでの方針決定が待たれる。

 富士山の文化遺産登録について、静岡県は12年度中の実現を目標に掲げている。11年中の登録目標を一度延期している山梨県は明確な目標を定めていないものの、登録作業は静岡県と歩調を合わせ進めている。

 富士北ろくの観光業者の中には登録に伴う規制強化の懸念がある一方で、「基本的に登録は歓迎」との声も多い。ある旅館業者は「遺産登録を果たすことで名実ともに富士山が世界に認められることになる。国内外に与えるインパクトも大きく、地元にとっては必ずプラスになる」と、富士山が「世界の宝」となる日を待っている。

国際専門家会議での指摘をふまえた推薦範囲案

 

(2010年6月16日付 山梨日日新聞掲載)
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