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「富士山世界遺産へ」<中> 厳しさ増す登録審査

独自性証明、重要テーマに 「信仰」「芸術」どう訴える

柳之御所遺跡

「平泉」の構成資産になれなかった「柳之御所遺跡」。登録審査では独自性を表すテーマに合致しない資産には厳しい評価が下される可能性がある=岩手県

 6月に世界文化遺産となった「平泉」(岩手県)の一角に位置する「柳之御所遺跡」。広がる芝生には、平泉のテーマである浄土をこの地に現出した奥州藤原氏の居館跡が残る。しかし平日も観光客でにぎわう中尊寺金色堂や毛通寺と比べ人影はまばら。登録審査の壁に阻まれ、構成資産になれなかった遺跡は、登録実現に苦心した関係者たちの“夢の跡”のようだ。

容赦なく除外

 年々厳しさを増す世界遺産の登録審査。日本の遺産候補も近年、審査を担当する国際記念物遺跡会議(イコモス)から登録延期勧告を受けるなど苦戦が続いている。平泉は当初9件の構成資産で登録を目指したが、「浄土思想と構成資産の関連性が分かりにくい」と指摘され、6件に絞って再挑戦。登録実現の時も柳之御所遺跡が同様の理由で構成資産から外され、最後の最後まで関係者は悩まされた。

 登録審査について、文化審議会世界文化遺産特別委員会の五味文彦委員長は「ほかの遺産と比べた独自性は特に大事だ」と指摘する。平泉も浄土思想という日本独自の宗教観をテーマとし、登録に成功した。しかし、テーマから外れていると判断された柳之御所遺跡は容赦なく切り捨てられた。

「予測できない」

 「構成資産はテーマと完全に合致しなければならない。余計な資産が入っていると見られれば問題視される」。平泉の世界文化遺産登録作業に約10年関わった岩手県教委の中村英俊文化財・世界遺産課長はこう振り返り、独自性を表すテーマにこだわる審査の姿勢を説明する。

 富士山の推薦書でも独自性は意識している。価値証明で挙げる「信仰の対象」「芸術の源泉」という二つのテーマについて、世界遺産に登録済みの世界各地の山との比較表を掲載。「信仰、芸術両面で強い影響力を持った山は富士山しかない」と他の世界遺産との“違い”を強調している。

 ただ、富士山の推薦を審議した文化審議会世界文化遺産特別委員会では比較検討の部分に注文も付いた。形状の似ている山との価値比較や、山岳信仰、見えない神への信仰がある山との価値比較を行うよう提案が出たという。芸術面でも、富士山を描いた浮世絵が洋の東西を超え、印象派画家にも影響を与えた点を大きな価値の一つとして説明しているが、「浮世絵が西洋文化に与えた影響をもっと広く捉える必要性があるのではないか」と指摘する声もあった。

 「何を問われるかは予測できない」(文化庁記念物課)とされるイコモスの登録審査。このため、年明けの推薦書正式版の提出に向け、文化庁は暫定版を基に検討を進め、さらに内容を充実させる考え。あらゆる角度から価値や独自性を説明できる備えが重要になっている。

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