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富士「世界の宝」へ作業加速

県、文化財指定へ体制強化

 富士山の2013年の世界文化遺産登録を目指す山梨県と地元市町村は、来年7月の文化庁への推薦書原案提出を目指し、活動を活発化させている。原案で必要となる富士五湖の文化財指定に向け、県は専門部署を新設するなどして推進体制を強化。全権利者の同意を取り付ける作業を始めている。富士五湖を取り巻く課題の解決に向けては、来年1月をめどに地元住民らが参加する「明日の富士五湖創造会議」を設置する計画。桟橋など湖の占用物件や景観などに関する議論を本格化させる。

本栖湖北西岸から望む富士山

本栖湖北西岸から望む富士山

 県は、当初目標としていた7月末の推薦書原案提出の先送りが決まったことを受け、世界遺産登録の推進体制を強化。世界遺産推進課内に対外調整室を設置し、室長ポストの職員を増員して関係市町村や省庁との連携を強化。このほか企画課職員1人を世界遺産推進課と兼務させたほか、富士・東部建設事務所吉田支所の職員を1人増員し、富士五湖の利用に関する相談体制を整えた。10月からは世界遺産推進課の職員をさらに1人増員した。

北口本宮冨士浅間神社の参道

構成資産の一つ、北口本宮冨士浅間神社の参道(富士吉田市)

 推薦書原案提出に向けた最大のハードルは、富士五湖の文化財指定に必要な権利者の同意取得。湖畔で営業するボート業者らの間には規制強化への抵抗感が残り、県と地元町村は、集会などを通じ業者らの理解を得ながら全権利者の同意を取り付ける作業を進めている。五湖のうち山中湖は山中湖村、河口湖と西湖、精進湖は富士河口湖町、同町と身延町にまたがる本栖湖は県が作業を担当。12月の取得完了を目指している。

 約20件の同意取得が必要な本栖湖は9月下旬に同意取得作業を開始。河口湖は富士河口湖町職員が今月13日から桟橋や船の係留場の権利者宅を訪ね、約110件の同意を得る作業を始めている。25件程度の同意取得が必要な西湖、約20件の精進湖も今月中旬には権利者を集めた集会を開くなどし、同意取得作業に入る予定だ。

 

御師旧外川家住宅

構成資産である御師旧外川家住宅(富士吉田市)

 最多の約180件の同意取得が必要な山中湖は、山中湖村がボート業者らを集めた勉強会を開き、業者らが抱える不安や疑問の解消を図っている。15日に2度目の会合を開き、18日から同意取得作業を始める方針だ。

 また県などは富士五湖の将来像を検討するため、来年1月にも地元住民らが参加する「明日の富士五湖創造会議」を立ち上げる計画。会議では、湖の桟橋設置のあり方、景観の美化、湖水の水位調節、静かな環境維持などをテーマに幅広く意見交換。県は、住民合意を前提に、桟橋の設置許可基準の見直しや富士五湖の静かな環境維持に関する県条例改正なども検討していく方針。

 世界遺産推進課は「富士山の世界文化遺産登録を機に、富士五湖を持続可能な観光地とし、魅力ある地域とするための環境を整えたい」としている。

 一方、県と静岡県は、来年7月の推薦書原案提出をにらみ、富士山の包括的保存管理計画の策定作業を本格化。既に構成資産などが固まっている推薦書原案についても、記述内容を洗練させる作業に取り組んでいる。

(2010年10月18日付 山梨日日新聞掲載)
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