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知名度生かし魅力表現

五味文彦 「富士山」推薦を審議文化審特別委員長

 世界遺産の登録審査は厳しさを増している。遺産の数が世界的に増え過ぎてしまったことが背景にある。多数の遺産をしっかり保全管理していくためには「もっと数を絞っていく必要がある」ということだ。「誰の目から見ても世界遺産というものはそう多くはない」という考え方も影響しているだろう。

 こうした中で類似の遺産は認められにくくなる。だから海外では類似の遺産をまとめて世界文化遺産を目指すような動きも出てきている。日本で言えば世界文化遺産となった姫路城と暫定リストに登載されている彦根城などを「日本の名城」としてまとめるようなケースだ。ただ、山を文化遺産にするという試みは日本の中ではまだないので、「富士山」はその点では分があると言える。

 近年の登録審査は、構成資産を絞り込むよう求められる傾向にある。世界遺産登録の歴史を見ると、初めのころは一点主義だった。注目を集める一つの遺跡が世界文化遺産になった。

 それが徐々に関連する構成資産を含めるようになり、「富士山」も文化遺産登録を目指した最初のころは、できるだけいろいろな構成資産を出すよう言われたはずだ。ただ、「平泉」を見ても最初の推薦の時に「構成資産を減らせ」と言われ、登録が決まる時もさらに一つ減らされるなど、最近はかなり絞り込まれるのが実情だ。

 「富士山」は外国人にもよく知られ、山容も目を引くので大きなメリットとなる。遺産の魅力をどう表現するかは重要な要素だが、富士山はそれほど難しいことではないのではないか。

 何より「人目を引くもの」をしっかり保存していこうという考え方が世界文化遺産の原点だ。世界文化遺産に登録されれば文化を見直す契機になるだけでなく、「平泉」が東日本大震災の被災地の復興のシンボルとなったように、沈みがちな地域を元気づける旗印にもなる。国はきっちりと推薦書を仕上げて臨む必要がある。

(2011年9月29日付 山梨日日新聞掲載)
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