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NZの世界遺産・トンガリロ国立公園

山々に息づく自然、信仰

 ニュージーランドには3つの世界遺産がある。委員会の会期中にその1つ、トンガリロ国立公園を訪ねた。

富士山に共通点/観光と両立模索

タラナキ滝

豪快に水しぶきを上げるタラナキ滝

 広さ約795平方キロメートルの山岳地帯。北島のほぼ中央に位置する。北島の最高峰ルアペフ山(標高2,796メートル)、トンガリロ山(1,967メートル)、富士山と似た形のナウルホエ山(2,291メートル)の3つの火山がある。この山々を中心に先住民・マオリ族の聖地とされている。

 マオリは、開発から自らの文化、自然を守ろうと1887年に政府に土地を寄贈。これを機に同国初の国立公園に指定された。1990年に世界遺産(自然)登録。山岳信仰を含めたマオリ文化との「共存」という観点から1993年には複合遺産(自然・文化)となった。

 マオリのトゥーファレト族で公園のレンジャーも務めるバブス・スミスさん(42)は「われわれマオリにとって山は心のよりどころ」と話し、マオリの歴史や文化を正しく後世に伝える必要性を強調。マオリ文化の伝承は学校教育にも取り入れられているという。

 国立公園内にはいくつものトレッキングコースがあり、すそ野にあるタラナキ滝を目指す約二時間のトレッキングを体験した。風雨で山々の姿は望めなかったが、火山地帯のさまざまな植物、水煙を立ち上げる豪快な滝を見ることができた。

ニュージーランド

 中でも人気があり、年間約20万人が歩くという公園横断コース(所要時間約7時間)は「一方通行」で、ハイカーはスタート地点にマイカーで乗り付けることはなく、環境に負荷をかけない仕組みになっている。同公園はルアペフ山を中心にスキーのメッカとしても知られる。

 公園は環境保全省のレンジャーら約50人のスタッフで管理。警察など関係機関と連携し、遭難者の救助体制なども整えている。さらに地元の自然歴史協会(フレンズ・オブ・トンガリロ)のメンバーがボランティアとして環境保全意識の啓発、動植物調査、施設の補修などを行っている。

 マオリの人々の意見も反映した管理計画が10年ごとに策定され、あらゆる規制、保全の決まりがここに記されている。管理費には国の予算のほか、公園内のスキー場運営会社や、観光客を輸送するバスなど交通会社とのライセンス契約金が充てられている。

 一方、ルアペフ山は活発な火山で、活動に伴い度々火口湖が決壊、土石流被害をもたらしている。1953年には土石流がすそ野を走る鉄道を直撃、150人以上が犠牲になった。火山学者のハリー・キーズさん(57)によると、現在は土石流のハザードマップが作成され、発生を知らせる警報システムが配備されている。

 山岳を中心とした広大な自然、それにまつわる信仰。さらに観光と自然保護の両立を模索する動き、噴火や土石流被害から身を守る対策-。富士山との共通項が多いトンガリロ国立公園。政府を軸に、各方面にバランスの取れた管理体制が敷かれていた。

(2007年7月13日付 山梨日日新聞掲載)
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