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外国人観光客どう避難


キケン情報伝え方が鍵

 「英語でのアナウンス、指示」(シンガポールの50歳男性)、「海外からの旅行者のためのガイドライン」(マレーシアの48歳女性)、「英語はもちろん世界の主要言語での情報提供」(シンガポールの52歳男性)。富士山が噴火した時に必要なことは何か-。観光や登山で訪れていた外国人に質問を投げ掛けると、こんな答えが返ってきた。

周知なく不安に

 多くは富士山が噴火する可能性があることを知っていたが、どう対応するかについては「分からない。ただ祈る」(インドネシアの29歳女性)との声も。どのような手段で、どこに避難するのか周知されていないことへの不安がうかがえた。

 2013年の世界文化遺産登録後、増加している富士山を訪れる外国人観光客。県観光企画課によると、昨年、山梨を訪れた外国人の延べ宿泊者数は初めて200万人を突破。多くは富士山を中心とした富士北麓地域を目的地としているとされる。

 【写真】富士山を背景に写真撮影をする外国人観光客。噴火情報をどう伝えるかが課題になっている=富士河口湖町

 「言葉の壁」がある外国人の命を噴火からどう守るのか。富士河口湖町は14年にまとめた観光防災の手引に、外国人の一時避難場所や収容施設、災害時に役立つアプリや情報サイトなどの情報を盛り込んだ。作成に当たり、特に留意したのが帰宅支援(帰国支援)の必要性だ。

 町地域防災課防災係長の渡辺大介さん(43)は「外国人観光客には『グローバル的な避難』が必要」と指摘する。「早く母国に帰りたい」と考える外国人に「成田空港までの道のりをどう伝えるか、東京の交通状況をどう伝えるか。住民や日本人観光客とは異なる情報が必要になる」と言う。

自治体間で差も

 ただ、富士河口湖町のように外国人に特化した対応を考えている自治体は一部にとどまる。「言葉のほかは日本人観光客と一緒なので、外国人観光客に特化した防災計画はつくっていない」(山中湖村総務課防災担当)といった声もあり、富士山の麓に位置する自治体の間で対応には差がある。

 「そもそも災害がほとんどない地域では、噴火とは、どういうことなのかすら分からない人もいる」。年間7千人近い外国人観光客を受け入れている富士河口湖町の貸別荘「レイクヴィラ河口湖」で支配人を務める宮下浩幸さん(45)は、危険性を伝える難しさを指摘する。

 「重要なことは文化の違いを踏まえ、シンプルに必要な情報を伝え、安心を感じてもらうこと」と宮下さん。宿泊する外国人観光客とは日ごろから、通信アプリ「ワッツアップ」や「ウィーチャット」などでつながりを持ち、必要な情報をいつ、どこにいても伝えられるように工夫をしている。災害時には、日本のニュースを英語に翻訳して流したり、多言語で災害情報を発信するアプリをダウンロードしてもらうよう呼び掛けたりする予定だ。

 それでも「一施設として、できる部分とできない部分がある」と強調する。その上で行政が取るべき対応を提言した。「外国人観光客に特化した防災計画の策定などに麓の自治体が連携して取り組むべきだ」


 【「守る命」富士山噴火に備える】
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