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2019.2.14 所属カテゴリ: 山日紙面で見る富士山 / 2月 /

大沢崩れに連続砂防ダム

富士山8合目 建設省が計画

 富士山の、大沢側の大崩壊を防ぐため、建設省は4月から、抜本的な砂防対策に乗り出す。これは、富士山8合目付近の大沢川岩樋(いわどい)上方に予定している調査ダムの建設について13日までに環境庁の同意が得られたため、建設省は総事業費1億1000万円を投じ、58年度内の完成を目指す。同省は、これを皮切りに、頂上近くまで砂防ダムを連続して建設するなど本格的な砂防事業に取り組む方針で、引き続き、この問題で環境庁との協議を望んでいる。しかし、環境庁は「これらのダムが富士山の景観を損なう」として消極的な姿勢をみせており、国土保全か美観かの富士山論議が高まりそうだ。

 大沢川は富士山の頂上から山ろくにかけて流れる唯一の川。頂上から標高2200メートル付近までの源流部では、約1000年前から「大沢崩れ」といわれる大崩壊が続いている。

 長さ2.1キロ、幅500メートルにわたり、絶えず岩石が落下、深さは150メートルにも達する。これまでの流出土砂量は7500万立方メートルに及び、頂上南方の愛鷹山(標高1167メートル)の全容量にも匹敵するといわれる。このまま放置すれば、100年後には大亀裂が、ふもと近くまで拡大し、ついには頂上が二つに割れて二子山になってしまう恐れがあるという。

 調査ダムは、この大崩壊の主な原因になっている「滝の後退現象」を抑えるには、どうするかをテストし、同時に流出土砂量の調査をするのが目的。

 「滝の後退現象」とは、滝の地質のもろい砂利層が風化、崩れるのが引き金になって、滝全体が後退しながら崩壊することで、この際、巨岩、巨石が落下する。

 抜本的な対策としては連続砂防ダムのほかに、岩盤に深さ100メートル前後、ボーリングしてワイヤを埋設し、そのワイヤで不安定な岩石を固定するアンカー・ボルト方式も検討された。この方法だと工作物が目立たず、景観保全の点では優れているが、工事実施のうえで難点があり、結局、連続砂防ダムに落ち着いた。

 しかし、これによると富士宮市方面からは、ダムが人体の背中に張られたばん創こうのように見えることになる。これを見えないようにするには、ダムの表面を植生などで覆うことが必要だが、富士山の植生限界は2200メートルまでとされている。この点で環境庁は強く難色を示しており、今後、論議を招きそうだ。

 大沢川の中、下流域には富士宮、富士両市など2市2町があり、これらの住民は、絶えず土石流の危険にさらされており、47年7月には富士宮市内で231戸が被害を受けている。これに対して39年から砂防工事が進められ、現在は富士宮市内の扇状地に造った遊砂地で流出土砂を食い止め、たまった土砂、土石を運び出す方法が採られている。 【当時の紙面から】

(1982年2月14日付 山梨日日新聞掲載)
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