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夏山登山者どう守る


■避難地図作製は第一歩

 富士山が山開きを迎えた2015年7月1日、5合目にある山梨県の総合管理センター内に大きな地図が掲示された。突発的な噴火の際の逃げ道を示した「避難ルートマップ」。強い風雨に見舞われ、登るのを断念した登山者らが見入る。東京都豊島区の女性(25)は、各地で火山活動が活発化する中、箱根山・大涌谷で小規模噴火が起きたとの情報を耳にしたばかり。「富士登山に不安がないわけではない。次に来る時は携帯したい」と話した。

 【写真】山梨県の総合管理センターに掲示された避難ルートマップ。富士山の突発的な噴火に備え、登山者に避難方法を周知する=富士山5合目

◎「活火山に登る」

 夏の登山シーズンは5合目の散策客のほか、麓の観光客も含めると最大で1日に1万人が訪れる富士山。突発的な噴火や噴火の兆候が表れれば大混乱も予想される。登山者や観光客は、どう行動すればいいのか。

 その判断を助けるために、県が作製したのが「避難ルートマップ」だ。千~1700年前に発生した噴火を基に、山梨側で予想される4パターンに分け、富士山有料道路(富士スバルライン)、登山道、林道を利用する方法と、溶岩流などを避けて逃げる方法を挙げ、避難方向を矢印で示した。県によると、登山者や観光客向けに避難路を示したマップは全国でも珍しい。県防災危機管理課の近藤照夫主任(33)は「マップを通して活火山に登るとの意識を持ってほしい。正しく恐れ、備えることにつながる」と説明する。

 マップ活用の前提となるのが、気象庁などが発表する「火山情報」。県は6月、火山情報を伝えるため、吉田口登山道の5合目より上の4カ所にサイレン機能付きのスピーカーを配備した。携帯電話に緊急メールで連絡する方法もあるが、「電池温存のため携帯の電源を切る登山者は少なくない。アナログだがスピーカーは有効な連絡手段」(山小屋関係者)という。

 マップ作製を含む突発的な噴火への備えは、2014年9月の御嶽山噴火が起点となった。それまでは地元関係者を中心に「噴火は全て前兆があり、予知できると思っていた」(堀内茂富士吉田市長)との認識が強く、御嶽噴火は富士北麓に衝撃を与えた。

 あれから約10カ月。突発的な事態に、滞在者を安全に避難させる具体策はこれからだ。富士スバルラインが溶岩流などで分断された場合、5合目のバスツアー客は登山用ではない靴で、足場が悪く狭い登山道を徒歩で避難しなければならない。

◎全関係者が連携

 「土地勘がない入山者がマップから現在地を把握するのは難しい」「山小屋関係者が誘導するなど、マップを基に実用性を高める対策を考えるべきだ」。マップの素案を公開した会議で、火山専門家からは指摘が相次いだ。外国人や高齢者、障害者への対応も含め、課題は山積している。

 「登山者がより安全に避難できるように、富士山に関わる全ての人が連携していく必要がある」。県防災危機管理課の山下宏課長は、マップ作製がそのスタートラインと位置づける。「初めの一歩は踏み出せた。今後改善を重ね、体制を強化していきたい」


 【富士山防災 噴火に備える】
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