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2018.9.12 所属カテゴリ: 山日紙面で見る富士山 / 9月 /

世界一の“気象レーダー” 富士山頂に完成 来月から威力を発揮

 気象庁が2年計画、2億2000万円の工費で建設を進めていた富士山頂気象レーダーがほぼ完成、電波監理局の予備免許が下りしだい電波を発射して試運転を始める。

 レーダー電波の送受信部など電子回路の最終調整も順調に進んでいて、10月初めには本格的な観測が開始できる見込み。東京オリンピック期間中に東日本を襲う台風があればその予報にさっそく大活躍が期待される。

 富士山頂レーダーは、日本で最も高い地点3,776メートルの富士山頂剣ケ峰に建設された。強化プラスチック製レドームに収められた直径5メートルのパラボラ・アンテナから出力2,000キロワット、周波数2,800メガサイの超強力レーダー電波を発射する。

 このレーダーで台風や雨、雪などの雲が観測できる範囲は800キロ。はるか本州南方の小笠原諸島付近までの海上、本州、四国、九州の大部分がすっぽり観測範囲にはいる。設置地点の高度、出力、観測範囲いずれも世界一という気象レーダーである。

 このレーダーの完成で、いままで気象観測の空白地帯だった東日本南方の広大な海域がカバーでき台風、とくに東日本を遅う台風の進路予報に大きく役立つほか、平地のレーダーでは山岳にさえぎられて観測しにくい盲点を含め本州上空や付近海上の雨雲、雪雲の動き、雨量強度などを観測して日常の気象予報にも重要な資料を提供することになる。

 レーダーの操作、観測は山頂測候所でもできるが、原則として東京の気象庁と山頂測候所を結ぶマイクロ回線を通じて東京からリモートコントロールし、レーダー像も気象庁で、同時受像するのが特徴。

 富士山頂は最大風速72.5メートル、最低気温氷点下35.5度が記録されているきびしい気象条件である。そこで耐風、耐寒にはとくに工夫がこらされ、レーダー電波を発射するパラボラ・アンテナを守るためのアルミニウム合金製のワクに強化プラスチックの板を特殊接着剤で張りつけた直径9メートルのドーム(レドーム)をかぶせた。冬にはこのレドームに氷や雪が凍結しやすいが、これは電波を吸収する大敵。このため高温の空気を5個のノズルからたえず吹きつけて着氷しないようにする。

 富士山レーダーの建設工事は、わが国の土木工事の中でも最も困難なものだった。電子機器類、レドームなどは全部組み立てたうえでS-62ヘリコプターで空輸、空輸した機材の総量は320トン、とくに0.45トンのレドームなどぎりぎり最大の重量を運ぶ〝決死的作戦〟が続いた。一方130トンの建設機材はブルドーザーで運んだが、富士山頂まで〝くるま〟があがったのも、もちろん初めて。

 作業は地上の3分の2の希薄な空気のもとで行われるものだけに、技術者はきびしい身体検査ののちに選ばれ、建設労務者は賃金を地上の2倍以上にして、やっと集められたが、それでも作業能率は地上の3分の1だったという。

 このような多くの困難を乗り越え、ついに富士山頂レーダーは完成したわけだが、秋の日ざしをあびて白く輝やくレドームが雲海の上にそそり立つ姿は、日本の象徴-富士山の〝新しい添えもの〟としても見事だ。 【当時の紙面から】

(1964年9月12日付 山梨日日新聞掲載)
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