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2018.8.04 所属カテゴリ: 山日紙面で見る富士山 / 8月 /

富士山噴火に見張り番 科技庁 傾斜・地震計設けマグマの動き把握

 科学技術庁防災科学技術研究所は、本年度から富士山の活動を監視する無人観測施設を周辺6カ所に設置する準備を進めている。昭和62年の山頂有感地震で指摘された手薄な観測態勢は解消され、噴火予知に向けての本格的な観測をスタートする。富士山は噴火活動する可能性があるとされており、予知体制づくりに関係者は大きな期待を寄せている。研究者は、予知技術の確立にも取り組む。

 計画によると、南都留群鳴沢村字絶頭の県有林に深さ200メートルの井戸を掘り、地震計、傾斜計、火山性地震に特有の震動を観測する長周期地震計などを設置する。

 富士天神山スキー場駐車場下約200メートルの地点で、敷地面積は約320平方メートル。収集したデータはテレメーターで茨城県つくば市の同研究所へ送信する。本年度は400万円で深さ約7メートルの井戸を掘り、試験的に傾斜計と地震計を設置する。来年度以降本格的に着工し、最終的には6カ所に同様の施設を建設する。

 同研究所の鵜川元雄地圏地球科学技術研究部主任研究員(36)の話では、設置する傾斜計は10キロ先が1ミリ傾いただけでも反応する極めて高精度のもの。昭和61年の伊豆大島噴火、昨年の伊東沖海底噴火ではこの装置で活動の前兆をとらえることができた。

 田中収大月短大教授(構造地質学)によると、地下のマグマが岩盤の割れ目に上昇する際には小さな地震や地殻のひずみが起こることが知られている。北西から南東に走る火山列を挟む形で観測網を敷くことでマグマの動きの把握が可能となり、噴火予知技術の確立が期待できるという。

 富士山の活動監視を目的とする国の施設は①東大地震研究所の地震計(西八代郡上九一色村本栖の大室山など県内3カ所、静岡県側2カ所)②気象庁の地震計(山頂と静岡県側の新5合目)―があるだけ。地震研は南巨摩群富沢町福士の富士川地殻変動観測所に傾斜計を設置しているものの、山頂から半径20キロ以内に高精度の傾斜計がないため噴火予知に直結する観測困難だった。

 気象庁の地震計は昭和62年8月の山頂地震の際に急きょ設置されたが、現在では南関東地震観測ネットワークに組み込まれ、広い地域で起きた地震の震源特定が主な目的となっている。山頂地震は火山性地震の可能性が高いとされたが、原因は分からなかった。

 今回の計画について田中教授は「富士山は古富士を含めても活動開始から8万年程度の青年期の火山。活動を再開する可能性は十分考えられる。重点観測に国レベルで取り組むことは画期的」と話している。【当時の紙面から】

(1990年8月4日付 山梨日日新聞掲載)
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