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2018.11.18 所属カテゴリ: 山日紙面で見る富士山 / 11月 /

富士山を世界遺産候補に 文化財保護審条約特別委

 文化財保護審議会(文相の諮問機関)の世界遺産条約特別委員会は17日、富士山を世界遺産候補として推薦すべきだとする意見を盛り込んだ報告をまとめ、同審議会に提出した。報告は、富士山を「日本人の信仰や美意識と深く関連し、日本を代表する名山」と位置付け、推薦には「国民の理解と協力が必要」としている。同特別委が富士山の世界遺産登録に向けて見解を示したのは初めて。富士山の世界遺産登録に関しては過去、署名活動などが展開された経緯がある。世界遺産の候補を検討してきた同特別委が、前向きな姿勢を示したことで、富士山の世界遺産登録をめぐる議論が再びクローズアップされることになりそうだ。

 同特別委は、世界遺産へ推薦する候補のリスト(暫定リスト)に載せる物件を選ぶため、今年9月に設置。3回にわたり審議し、この日結果を報告した。

 この中で、今後の世界遺産登録に向けて調査研究や保護措置などの状況を分析しながら候補物件を追加することを提案。富士山をその一つとして取り上げた。

 報告は富士山を(1)古来から霊峰として富士信仰が伝えられている(2)遠方から望む秀麗な姿が多くの芸術作品の主題になっている(3)今日まで人々に畏(い)敬され感銘を与え続ける日本を代表する名山-とし、歴史や芸術分野から見た重要度を指摘。「顕著な価値を有する文化的景観として評価できる」と、富士山の価値を高く評価した。世界遺産登録への推薦の“条件”としては「多角的、総合的な調査研究の一層の深化」と「(富士山の)価値を守るための、国民の理解と協力の高揚」の2点を挙げ、環境整備の必要性を強調している。

 富士山の世界遺産登録をめぐっては1994年、山梨、静岡両県の自然保護グループを中心とする「富士山を世界遺産とする連絡協議会」が登録を目指して署名活動を展開。同年6月には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦を働き掛けるよう求める要望書や請願書を、環境庁や文化庁、林野庁、衆参両院などに提出した。また同年、両県の文化・自然保護団体、企業などでつくる「富士山を考える会」が、衆参両院議長に請願提出している。

 文化庁によると、この日の報告は、特別委のこれまでの議論をまとめたもので、現段階では富士山の世界遺産登録に向けた「具体的な動きや計画はない」(文化庁記念物課)という。

 同特別委が、富士山の世界遺産推薦に期待感を示したことに、富士吉田市の武川勉市長は「地元の自治体としては大変喜ばしい。富士山は日本人の心の古里であり、現在、環境保全に向けてさまざまな取り組みを実践している。今後もできることを積極的に進めていきたい」と話している。

 この日の文化財保護審議会では、暫定リストに追加する物件として、平安末期に奥州平泉で藤原氏が築いた「平泉の文化遺産」(岩手)、「紀伊山地の霊場と参詣(さんけい)道」(和歌山、奈良、三重)、「石見銀山遺跡」(島根)を内定した。12月の関係省庁会議後、ユネスコ世界遺産センターにリストを提出する。

 暫定リストの追加は、既に世界遺産に登録されている広島県の原爆ドーム(1995年にリスト作成)以来。これまで日本からは原爆ドームのほか、「法隆寺の仏教建造物」(奈良)など7件の文化遺産と、「白神山地」(青森・秋田)など2件の自然遺産が登録されている。【当時の紙面から】

(2000年11月18日付 山梨日日新聞掲載)
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